赤染氏と置始氏

★はじめに

古代豪族に赤染氏や置始氏と言う氏族がおり、ほとんどの歴史関連の大家の先生は赤染や置始(「始」は染の当て字で置始とは置染が正という。)は現今で言う染色業者とされる。しかし、「そめ」は漢字で書くと「染め」と「初め」があり、必ずしも置始が置染とは限らないと思う。また、赤染は赤は銅の意味で「赤染氏はもと豊前国田河郡香春郷の銅鉱山採集民であった渡来系工人たちを束ね、香春三の岳にあった古宮(こみや)鉱山から採れる金、銀、銅、水銀、水晶、石灰などによって一家を成した」という説もある。赤染氏の居住地としては、奈良平城京・河内国大県郡(大阪府八尾市神宮寺、恩地周辺)・遠江国榛原郡(静岡県島田市周辺)・因幡国八上郡(鳥取県八頭郡周辺)などがあるようである。これらの地には精銅のための原石があったということか、はたまた、染色技術者がいたと言うことか。赤染氏の本貫としては河内国大県郡をあげる説が多く、赤染とは茜染めのことで、赤染氏が伴造として品部を管理していたと言う。『吾妻鑑』では鎌倉時代にも当地の人々が「河内国藍御作手(あいみつくて)奉行」に任じられて染色技術を諸国で指導したと言う。従って、豊前国田河郡香春郷の赤染氏であるが、その仕事内容が河内国大県郡の赤染氏とまったく違い両赤染氏はまったく関係がなく別個の家系と思われる。そこで、赤染氏と置始氏について個々に検討してみる。

★赤染氏

赤染氏は後ほど常世氏と名を変え『新撰姓氏録』には、以下の三氏が登載されている。
左京 諸蕃 漢 常世連 連    出自燕国王公孫淵也
右京 諸蕃 漢 常世連 連    出自燕国王公孫淵也
河内国 諸蕃 漢 常世連 連  出自燕国王公孫淵也
いずれも同じ出自で同族と思われる。豊前国の赤染氏は調査未了のため登載されていない。しかし、<赤染>と言う氏はほかに名乗っている氏族はなく、おそらく、豊前国の赤染氏も河内国大県郡の赤染氏と何らかの関係(赤染氏の末流か、あるいは、赤染部か)があったかと思われる。一応、赤染氏末流にせよ、赤染部にせよ、豊前国香春郡へ来たのは染色技術の指導であり、銅などの採掘のためではないと思われる。初めっから銅の採掘あるいはほかの目的でやって来たのならそれは燕国王公孫淵の末裔を称する赤染氏とは関係がなく、それは別に検討をしなければならない。
九州には装飾古墳が多く、特に、福岡県南部と熊本県に多い。日本の古墳は装飾古墳でなくとも諸々の理由から墳墓の石棺などにベンガラが施されており「そもそも埋葬施設でベンガラを用いることは弥生時代中期末〜後期初頭の北部九州が初源と考えられており、前方後円墳の登場以降その風習が西日本に広まる。」と言う見解もある。「赤染」の<染>の字であるが、重箱の隅をつつくような話で恐縮ではあるが、辞書によっては、「染める  布などを染料に浸すなどして色や模様をつける。染色する。また、塗って色をつける。(三省堂大辞林 第三版)」とあって、必ずしも浸染だけが<染め>と言うのではなく、捺染や今で言うペンキ屋さんの仕事ごときも染めると言ったようだ。よって、豊前国香春郡の赤染氏は来朝当初はベンガラ等による塗装を主力業務としていたか。また、来朝ルートは畿内の常世氏が燕国の公孫淵を始祖としているようなので現在の遼東地域かと思われ、豊前国香春郡の赤染氏は新羅国とか秦氏とか言っている(「新羅の国の神、自ら度り到来りて、此の河原に住みき、すなわち名づけて香春の神と曰う。」<『豊前国風土記』>)ので、あるいは、常世連と豊前の赤染氏は違う氏族かとも思われる。また、両氏の関係も希薄だったようで畿内の赤染氏が常世と名乗っているのに豊前の赤染氏はそのまま赤染である。また、装飾古墳が福岡県南部と熊本県に偏っているというのも装飾古墳の導入窓口が筑後川河口流域かとも思われ、あるいは、豊前の赤染氏も長江流域からやって来た人かも知れない。両赤染氏は地域が離れているのに赤染と言うのは当時にあっては赤染とは古墳の塗装業者を言ったのかもしれない。
豊前国の赤染氏が畿内の赤染氏と関係があるのなら、当然のことながら豊前赤染氏は染色業者であり、豊前には染色技術の指導のためやって来たものと思われる。染料や顔料よりも当時にあっては非鉄金属の方が儲かったのかも知れない。職業替えして鉱山採掘業に転職したのであろう。元々、織や染の技術は応神・仁徳朝の頃に秦氏が招来したものとされているが、それには疑問が呈されており、また、秦氏が日本へ渡ると初め豊前国に入り拠点とした、と言う説もある。これなんかは、秦氏系元祖赤染氏は豊前国の赤染氏で、河内国大県郡の燕国王公孫淵系赤染氏とは関係がないことになろう。

★置始氏

置始氏は『新撰姓氏録』によると、

左京 神別 天神 県犬養宿祢 宿祢   神魂命八世孫阿居太都命之後也
左京 神別 天神 大椋置始連 連    県犬甘同祖
右京 神別 天神 長谷置始連 連    同神(神饒速日命)七世孫大新河命之後也

県犬養氏系の大椋置始氏と物部氏系の長谷置始氏があるようだ。文字の「置始」の「始」の字だが、「染」の当て字とする説もあるが、「始」は「初め」の意味で「始」の字が正当ではないか。それに、複姓と思われる「大椋」や「長谷」であるが、大椋はそのまま大蔵であろうか。大椋置始氏は大蔵で染色関係の職に従事していた伴造氏族という説もある。しかし、大蔵氏(渡来系、大蔵官僚)と巨椋連(山城国久世郡巨椋神社<宇治市小倉町>)及び大椋置始連(山城国紀伊郡大椋神社<京都市伏見区住吉町>)は直接関係はなく大蔵に出仕した氏族であるかどうかは疑問、とする見解もある。長谷は支倉(はせくら・慶長遣欧使節団正使支倉常長が著名)と言う地名もあり、長谷は地形的には川や道などが二手に分かれるところ、あるいは、二手の川や道に挟まれた土地を言う、とする見解もある。但し、支倉については「長谷倉といったのを走倉と書き誤り、走が支に転じた」という説がある。但し、地名の「くら」は<「クラ」のつく地名は崖、谷などに多い地名。「くら」は「刳(く)」ラが語源と言う。>という説がある。また、「磐座・磐倉・岩倉(いわくら)とは、古神道における岩に対する信仰のこと。あるいは、信仰の対象となる岩そのもののこと。」ともある。以上より、「クラ」にはいろいろな意味があるようで、1.山の鞍部(峠)を言う。2.谷、岩、崖、洞を言う。3.倉庫、蔵。4.座るところ。物を置くところ、など。即ち、ここで言う、大椋や長谷(倉)の「クラ」は重量のある岩を置くことを言い、置始とは蔵や磐座のような重い建造物等を設置する場合、まず最初に地盤が不等沈下を起こさないように地盤の状況を調査し、礎石(現今の基礎)を据えることを言うのではないか。従って、置始氏は染物屋ではなく現今の基礎工事業者ではないのか。物部氏や県犬養氏の一族が染物屋をやっていたなんてあまり聞かないところだ。染色などと言う特殊技術の持ち主は古代にあっては渡来人(帰化人)の専売特許ではなかったか。平安時代になると色別の専門家が現れ、紅には紅師、紫には紫師、紺染師、黒染師、茶染師などがが生まれた。

★まとめ

赤染氏と置始氏だが、「染」と「始」は読みが同じでも意味が違うようだ。漢字が違えば当然だろうと言われればそれまでだが、以前は高名な先生方でも置始の「始」は「染」の当て字とする説がほとんどだった。伊勢国安濃郡には式内社の置染神社があり、祭神も神饒速日命と言っているので、長谷置始氏がその祖先、神饒速日命を祭り産土神としたのが創祀と伝えられる、などと曰っている。長谷置始連氏が伊勢国安濃郡の出身かどうかは解らない。長谷は大和国城上郡長谷郷(桜井市初瀬町)とするのが多数説である。畿内の赤染氏はその後名を「常世連」と変えている。豊前の赤染氏はそのままだ。
常世連は、我々は燕国王公孫淵の子孫、あちら(豊前赤染氏)は秦氏の子孫で格が違うとか、我々は染物屋、あちらはペンキ屋あるいは山師(採鉱業者)でスマートな職業ではない、などと言っていたのではないか。やはり、ご先祖さまが違えば別の氏族であり、同じ赤染と言ったからと言っても常世連は染色業者であり、豊前赤染氏は採鉱業者であったのではないか。
置始氏にしても県犬養宿禰系の大椋置始連と石上朝臣(物部氏)系の長谷置始連は同じことをしていたのかどうか。両氏にはほとんどつながりがないようで、あくまで本拠地の一つと言うことではあるが、大椋置始連は山城国紀伊郡を本貫としていたようであり、長谷置始連が伊勢国安濃郡を本貫とするなら、両置始氏は先祖も違えば本貫も違うと言うことで、おそらく「置始」と称する業務に従事していたのであろうか。大椋置始連の大椋は大きな岩あるいは大きな建物のことで、長谷置始連の長谷は今ひとつ解らないが礎石と柱を接続する部分のことを言うか。あるいは、長谷倉として大椋に対する概念で大椋よりは中小型の岩(礎石)を言ったものか。いずれにせよ、置始とは「置」が重量礎石を地上あるいは地中に置くことをいい、「始」は大型建造物の着工の始めに行うと言うことかと思う。従って、置始氏とは現今で言う建造物の基礎工事業者を言うと思われる。なお、大椋置始連が県犬養宿禰と同祖とされるのは大椋置始連が大蔵で染色業をしていた、と同時に、県犬養宿禰が大蔵の守衛を行っていたので通婚関係から同祖とされたという見解もあるが、いかがなものか。

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