伊予の語源

★はじめに

現在の愛媛県を表す「伊予国」の「伊予」は語源に定説がないというのが現今の通説という。かっての「伊湯(いゆ)から伊予への転訛説」はどうなったのか、と言う心境だが、細大漏らさず取り上げても大変なので主な説を紹介する。

「弥」説
漢字の「弥」は、「いよ」「いや」「や」と訓ずるらしいが、いずれも同じような意味合いで「いよいよ。ますます。事柄や状態がだんだんはなはだしくなるさまを表す」の語義がついている。何が「いよいよ、ますます、甚だしい」のか皆目見当がつかない。せいぜい読みに「いよ」とあるので、これが語源となるか。「弥(いや)」を美称とする説もあるが美称を冠せられる語が不明。
「湯」説
かっての定説という。「イヨ」の「ヨ」は道後温泉の「ゆ(湯)」から転訛したもので、それに発語の「い」を付して「イヨ」になったという説。道後温泉は温泉郡にあり、伊予郡もほかにあるので「ゆ(湯)」が伊予の「予」の語源にはなり得ないとの反論がある。
「湧水説」
古代では、湧水を「いゆ」と言い、これが「いよ」になったとする。伊予神社(伊予市)の旧境内跡地には弥光井(いこい)神社(神社はなく湧水跡のみ)があると言う。「いゆ」が「いよ」になる経緯が説明できない。

ほかに、高く山のそびえる地説、伊予豆比古命の名による神名由来説、弥二並(いやふたならび)の島という語の「いや」より転じた説、伊(彼)ニ予(預)国によるとする説、アイヌ語「入る」(四国の入口)説などがある。

いずれも通説にはなり得ずとされる。

★「伊予」の地名の検討

伊予の地名は中国・四国以外にはそんなに見当たらない。

1.伊予ヶ岳(いよがたけ)
「千葉県南房総市にある山で、標高336.6m。房総丘陵の山の一つである。なだらかな山が多い房総の山の中では珍しい岩峰で、千葉県内で唯一山名に「岳」がつく山である。伊予国の石鎚山に、山容が似ている」とある。
山麓の平群天神社は縁起によると文和二年(1353)細川相模守が京都北野天神を勧請・建立したという。天狗の伝説も多いことからそれ以前に山岳信仰があったか。伊予ヶ岳は平群天神社の神体山だったか。山名は古代に安房国を開拓した阿波忌部氏関係者が命名したか。文献初出は不明。
2.伊予国伊予郡
一応、伊予神社があるところが地名発祥の地ではないかと言われている。伊予神社の論社は三社ある。
・伊予神社(伊予市)
「磐」が祀られている(境外末社・祇園社を合祀した時<明治43年>遷した。ドルメンもあった)。当社周辺には弥生遺跡と古墳群が多い。
・伊予神社(愛媛県伊予郡松前町)
縄文・弥生の遺物がほとんどない。
・伊豫豆比古命神社(椿神社)(松山市)
式内小社の伊豫豆比古命神社に比定する説が有力である。
3.五百井(いおい)村(奈良県生駒郡斑鳩町五百井)
「当村に五百井戸という古井がある。自然石を組み合わせた岩井(いわのい)である」とある。
五百井戸(いほ・いど)は岩井戸(いは・いど)の転訛であろう。
「伊与井於庄」(寛喜3年(1231)春日社・中臣祐定記)は「五百井戸」のことか。
4.五百木村(愛媛県喜多郡内子町五百木)
五百木を「いよき」と読む。少なくとも奈良時代までは「いほき」が標準語。江戸時代(慶長19年<1614>文献初出)からの地名か。
5.伊与木郷(高知県幡多郡黒潮町伊与喜)、伊尾木(高知県安芸市伊尾木)
寺田寅彦「土佐の地名」では「伊与木も伊尾木も多分同じものか」とある。江戸時代からの地名か。伊与木郷は慶長2年<1597>文献初出。伊尾木は天正16年<1588>文献初出。土佐では魚のことを「イオ」または「イヨ」と言い、木は場所を表すので地名は「魚が多く捕れた場所」を表す、とする見解がある。
6.伊与郷(現広島県庄原市比和町比和・古頃・木屋原・三河内<みつがいち>か)
備後国恵蘇郡地毘荘のうち文応2年2月28日の千光寺領地毘荘本郷内領家職田数目録案に「嵯峨千光寺領備後国地毘本郷内」の村として「伊与」が見える。鎌倉期~戦国期に見える村名。
7.伊保木(いよき)村(現山口県光市室積村大字東伊保木、西伊保木)
天保13年(1842)室積村に合併。

★「イヨ(伊予)」とは朝鮮語か

我が国には朝鮮語を得意としている人が多いらしく、語源を何でも朝鮮語に求める御仁がいる。特に、山名の語尾に「森」「丸」がつくのは朝鮮語で山をモリ(モイ)とかマル(モロ)とか言うらしく(但し、現代ではサン<山>と言うらしい)、朝鮮語起源説を唱える人もいる。「森」について言えば、四国と東北に多いといい(例、一ノ森<美馬市>、二ノ森<久万高原町>など四国に二十山ほどある)朝鮮語とは無関係ではないと考える人が多いようだ。山名「××森」は高知県に圧倒的に多く、次いで愛媛県に多い。何やら「イヨ(伊予)」もこれに似ているような感じがする。因みに、日本の山の語尾は、山(72.1%)、岳(13.0%)、森(3.5%)、峰(3.3%)、他(8.1%)といい70種類以上あるという。しかし、日本語の「森」は、木々が生えて地面からだんだん盛り(森)上がって上方へ行く様を言うのであろうから、それ自体、山の意味になるのではないか。単に平地に木々が生えているのは「林」というのか。また、「岳」にしても「丈」(丈<たけ>は、人や物の高さのこと。例:身の丈)と同根で、丈(たけ)は、「長ける(たける)」の「たけ」という見解もある。「森」も「岳」も垂直方向の高さをいい日本語と解して問題がないようだ。従って、「イヨ(伊予)」も韓国語にはなり得ないと思われる。ドルメンは多少問題になるかも知れないが、四国には朝鮮文化はほとんど入って来ていないと思われる。

★「伊豫之二名嶋」とは何か

「伊豫之二名嶋」とは一般には四国全体を指すと解されている。そのままみると「伊豫」(姓)「二名嶋」(名)とも解される。即ち、「伊豫之二名嶋」さんには四子がいて伊豫國の愛比賣さんは長女で、讚岐國の飯依比古さんは長男、粟國の大宜都比賣さんは次女、土左國の建依別さんは次男、と言うことかと思う。完全な女系社会のようで愛比賣さんは家督相続人という雰囲気だ。長男には農業をやらせて食糧を確保し、次女は調理師兼陶工、次男には警護を担当させていたと言うことか。ところで、「伊豫之二名嶋」さんの伊豫はいいとしても、「二名嶋」とはどういう意味なのだろうか。以下、「和名抄」より類似の地名を拾ってみると、
・ふた(布多、冨多) 下野国都賀郡布多郷、薩摩国日置郡冨多郷
・ふたかた(二方) 但馬国二方郡二方郷
・ふただ(二田) 筑前国鞍手郡二田郷、筑後国竹野郡二田郷
・ふたまた(二俣) 周防国都濃郡二俣 出典「日本三代実録」
・ふたみ(二見) 伊勢国度会郡二見郷
・ふたむら(二村、双村) 讃岐国鵜足郡二村郷、尾張国山田郡双村郷
・ふたゐ(二処) 長門国厚狭郡二処郷、長門国大津郡二処郷
などが見受けられる。
「二名嶋」の二名の「名」は土、土地、陸などその種の言葉が連想され、それと対になる上記地名では「二見」があろうかと思う。二見は「二海」もしくは「二廻」のことで、二海なら深海(ふかみ)の転か、と言い、二廻ならフカ・ミ(廻)で湿地を言う、とある。伊勢国度会郡二見郷は深い海を前にした地であり、二海と解されているか。
ひるがえって、上記で形容詞的に用いられている「二(ふた)」とはどういう意味なのだろうか。一説によると、日本の旧石器時代・縄文時代草創期などでは数字は最高でも「十(とお)」くらいで、その論理で行くと数字は「一(ひい)、二(ふう)」だけの時代もあったのではないか。そういう時代にあっては「二(ふた、ふう)」は面積、容量等がより大きい方とか、数量(個数)等がよりたくさん<二個以上なのであろう>の意味を表したのではないか。以上より上記地名の「二」は日本の数の最古層の残滓ではないのか。よって、「伊豫之二名嶋」とは、伊豫(=四国)の大地主という意味になろうかと思う。

★まとめ

「イヨ(伊与木)」「イオ(イヲ)(伊尾木)」を土佐では魚のことを言い、木は場所を表すので地名は「魚が多く捕れた場所」を表す、とする向きもあるが、「イヨ」とか「イヨキ」という地名が、少数ながら中国・四国地域に分布し、海岸ばかりでなく内陸にもあるので一概に魚と定義づけることはできないと思う。「イヨ」の語の関連性をみてみると、
伊予ヶ岳 岩峰と言う。
伊予神社(伊予市) 「磐」が祀られ、ドルメンもあったと言う。
五百井 自然石を組み合わせた岩井があったと言う。
意外と「岩(イハ)」に関連づけられていることが多い。五百木を「いよき」と読んだり、伊保木を「いよき」と読むのも中国・四国地域の特徴かとも思う。標準語的には「イホキ(イオキ)」と読んだのではないか。
以上を結論づけるなら「イヨ(伊予、伊与)」とは「イハ(岩)」の中国・四国地方の方言であり、磐座信仰や墳墓を岩で築造する文化と関係するのではないか。神戸市の「西求女塚古墳では葺石や基底石などはこの周辺でとれる花崗岩が使われています。また、石室の天井石に使われている石材のうち緑泥片岩(りょくでいへんがん)は和歌山県や徳島県で、石英斑岩(せきえいはんがん)は猪名川(いながわ)上流の川西市近辺でしかとれないもの」というのも四国が石材の産地だったことをうかがわせる。

 

 

 

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