香春神社

はじめに

「(香春神社の)周辺はセメント原料採掘のためか哀れな姿に」とか「香春の人は神をすり減らして生きている」とか、聞いただけでも心身がおかしくなりそうな香春神社の現況だが、香春町もかって資源の枯渇とともに閉山に追い込まれた国内炭鉱のような町で人も神社も何もかにもがなくなっていく様を彷彿とさせる。現状を嘆いても我々にはどうすることも出来ないのであって、「栄枯盛衰は世の習い」とばかりに、かってのよき時代の香春神社を紐解いてみることにする。

★伝わるところの香春神社

香春神社は元は香春三山(一ノ岳・二ノ岳・三ノ岳)の山頂にあったと言うが、和銅2年(709年)に山頂の三社を現在地に移設して、香春神社となった。元の神社の名は、
一ノ岳 辛国息長大姫大目命神社(標準的な読み、カラクニ・オキナガ・オオヒメ・オオメ)
二ノ岳 忍骨命神社(同、オシホネ)
三ノ岳 豊比咩命神社(同、トヨヒメ)
祭神名が神社名になっていてすっきりしているが、祭神名の意味については諸説がある。
1.辛国息長大姫大目命
おそらく本来の神名は「辛国命」であって、息長大姫や大目は、土地の豪族赤染氏によって随時追加されたものであろう。しからば、辛国とはどういう意味か。多数は韓国即ち外国の意味と解しているようである。とは言え、何で倭国に辛国(=韓国)が出てくるのかとんと見当もつかない。そこで、私見では、辛(から)は「高地」の意味に解し、国は「山」の意味に解して、「高い山」の意味と考えた。息長大姫は、辛国を疑問に思った赤染氏が三韓征伐のご本尊である「古事記」に言う「息長帯比売命」あるいは「大足姫命皇后」から採用したものであろう。ここでどうして「辛国」をカットし「息長帯姫」としなかったのかと言えば、「息長帯比売命」を祀っている本家本元の神社に「どうして人の神社の祭神を勝手に祀るのだ。祭神名から息長帯比売をはずせ」と言われたら、元の祭神がわからなくちゃあ「名無しの権兵衛」神社になってしまう。そこで「辛国」を残し、難癖を付けられないように「息長帯比売」を「息長大姫」としたものだろう。また、「大目」は赤染氏が鉱山業を始めたとき鉱山の神を祀らねばならないと言い出し、どこから聞き及んできたかは解らないが「天目一箇神」がいいとなり、これまたそのものズバリではよくない、と言うことで、「大目」となったものであろう。したがって、辛国息長大姫大目命の本来の意味は高山神である。
2.忍骨命
忍骨命は「天忍穂耳命」のことという見解もあるようだが、多くは香春三山に露出している「石灰岩」と解しているようである。私見では忍骨(おしほね)は漢字に書き改めると、大(多)秀根で、秀は山頂を意味し、根は山麓を意味するのではないか。即ち、これまた、「大山」あるいは「多山」(と言っても、三山か)を意味するものではないか。
3.豊比咩命
豊比咩命についてはよく解らない。豊比売命を辛国息長大姫大目命と同一視する見解もある。あるいは、豊の国の姫と解する向きもあるようである。一般的には山岳信仰で著名な神社は女神を主祭神とする傾向にある。例として、浅間神社(木花咲耶姫)、白山比咩神社(白山比咩大神(菊理媛神《くくりひめのかみ》)など。白山比咩を例に取ると豊は香春岳三ノ岳の山名か。
なお、「香春神社縁起」ではかなり異なった趣旨を説いている。曰く、
「第一座辛国息長大姫大目命は神代に唐土の経営に渡らせ給比、崇神天皇の御代に帰座せられ、豊前国鷹羽郡鹿原郷の第一の岳に鎮まり給ひ、第二座忍骨命は、天津日大御神の御子にて、其の荒魂は第二の岳に現示せらる。 第三座豊比売命は、神武天皇の外祖母、住吉大明神の御母にして、第三の岳に鎮まり給ふ」と。

以上を概括すれば、香春神社は元々は山岳信仰の神社であり、「豊前国風土記」逸文でも「鹿春郷」の山紫水明を称えている。鉱物資源が己が富や権勢の力の源泉となったのは赤染氏だけでほかの民にはどうでもよかったことではなかったか。
なお、平安時代初期における香春神社の社格は非常に高く(正一位の神階が与えられたのは、承和10年(843年)と言う)云々、と説く見解もあるが、これは赤染氏の財力の問題で平安遷都によって資金需要が旺盛な朝廷へ赤染氏が豊富な資金を提供したからと言うことではないか。「地獄の沙汰も金次第」とあるが「神社の格も金次第」だったのである。

★現人神社と古宮八幡宮

現人神社(あらひとじんじゃ)
香春町の現人神社は祭神を都怒我阿羅斯等(つぬがあらしと)とし、「アラシト」から「現人神社」という、との説が有力。また、香春一ノ岳にあった鬼ケ城城主原田五郎義種を祭神とし、江戸時代の信徒は義種の家臣団の子孫とする説もある。ほかに現人神社には福岡県筑紫郡那珂川町にある同名神社が有名で、こちらは祭神を住吉三神としている。「万葉集」に「住吉(すみのえ)の現人神(あらひとがみ)」とあり、住吉神は人の姿で現れ、霊験を示す、との理由によるものか。現人神社は主に九州北部に多いようである。ほかに荒人神社と書いて「アラヒトジンジャ」と読む神社もある。こちらは九州、山口県を主に、四国、関東等に散見する。祭神はまちまちで、隠れキリシタンの礼拝所、土地で武功のあった人(渋谷荒人<福島県>、中馬左衛門尉重頼公<鹿児島県>)、平家の落人、住吉神などがあげられる。一貫性のない荒人神社よりは現人神社が優勢ではある。しかし、那珂川町の現人神社は「ここは全国の住吉神社の元宮」という人もいるがはなはだ怪しい話だ。そもそも「現人(荒人)」とは「新人(あらひと)」即ち、英語で言うと「New Comer」の意味であり、香春町の場合、香春神社の信徒が元々の住民で、現人神社の信徒は銅の採掘か何かであとからやって来た人たちではなかったか。あとからやって来た人も香春神社の信徒に組み込めばよかったではないか、と言う意見もあるかと思うが、一ノ岳と三ノ岳は離れすぎている、あるいは、採掘のために来た人たちは外国人労働者だった可能性もあるだろう。しかし、朝鮮半島の宗教と日本の神道とは似ていたのだろうか。
古宮八幡宮(こみやはちまんぐう)
これもまちまちなことを言う人もいるが、インターネットの百科事典にある「香春岳で産出する銅を宇佐神宮の御神体(銅鏡)として奉納していたことが縁となり、同神宮の御祭神であった応神天皇、神功皇后の神霊を勧請したことに始まるとされる」が正当ではないか。当神社の長光家は鏡作氏の後裔という。但し、八幡宮と言うから祭神は上述の八幡神(応神天皇、神功皇后)だけかと思いきや、古宮の祭神豊比咩命一座とする説もある。豊比売命は近くに在る香春神社例祭の時には香春神社へ下向し、例祭が終わると再び古宮八幡宮に戻る、と。無論、豊比咩命と八幡神と双方が祀られているとするのが神社の主旨か。あと、「日置絢子が採銅所内にある阿曽隈を崇拝し奉る」という意味不明の文章もあるらしい。「阿曽隈」(三ノ岳中腹に神社跡があるという)が古宮八幡宮しいては香春神社の元宮と言いたげな人もいる。また、豊比売命から近所に「豊」という地名があって「豊の国」となったか。もっとも、「豊」の語源は「響(とよむ)」というのが有力で、この場合の「豊の国」は阿蘇山、九重連山、鶴見岳の火山の噴火音がうるさいことを言ったものか。

★香春神社の神官

香春神社の神官として赤染氏二家、鶴賀氏一家があるという。赤染氏二家が辛国息長大姫大目命神社と忍骨命神社の神官を、鶴賀氏は豊比咩命神社の神官をつとめていたか。鶴賀氏はほかに現人神社の神官もつとめているという。鶴賀氏は仁平三(1153)年春、鎮西八郎為朝が、豊前田川に源氏の氏神である鎌倉の鶴岡八幡宮を勧請したとき、鎌倉の鶴岡から豊前に西下した者ゆえに鶴賀氏を名乗ったと言う説もある。ツルガオカのツルガを氏名としたか。八幡宮の神官がどのようにして香春神社の神官に食い込んだのだろうか。多数説は赤染氏も鶴賀氏も同族と考えているようである。香春神社と銅の採掘も問題で、前述のように赤染氏二家が辛国息長大姫大目命神社と忍骨命神社の神官を、鶴賀氏は豊比咩命神社の神官をつとめていたとか、採銅所に現人(新人)神社があるとか、宝鏡を鋳造する「清祀殿」があるとか、一ノ岳・二ノ岳に対し三ノ岳は異なった趣がある。結論を言えば、豊前赤染氏は中央の赤染氏の部民であり、豊前国で染色技術の普及を図っていたが、染料・顔料の原料がなくては話にならないので、それを求めて山野を駆け巡っていたのではないか。銅鉱の発見もその一環で、時代は染め物技術より銅そのものを必要とし、赤染氏も銅の採掘を始めたかと思うが、それを嗅ぎつけてやって来たのは旧豊津町(現・京都郡みやこ町豊津)あたりにいた渡来系の秦氏一族か。大宝2年(702年)の正倉院の豊前国戸籍残簡(仲津郡丁里、上三毛郡塔里、上三毛郡加自久也里の戸籍で後世の「鹿春郷」は入っていない)では、秦部、○○勝(秦氏の一族という。「すぐり」と読むが「かつ」と読む説もある)の姓が計90%以上であるという。多くの説はこの秦部、勝を渡来人ないし渡来系の人と解しているが、本当か。これらの人は姓(秦部、勝)からも解るようにあくまでも部民であって、みんながみんな本体(渡来人とされる)の秦氏や赤染氏の一族とは考えられない。おそらく多くは旧来の倭人であろう。香春の採銅所を運営したのはあくまで赤染氏(正確には赤染部と言うべきか)であり、神社の格も赤染氏が神官のところは正一位、鶴賀氏が神官のところは正二位となったのではないか。

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