景行天皇のセンチメンタル・ジャーニーは本当か

 日本書紀には、
 
 景行12年8月 天皇、西征のため筑紫へ発向。
    19年9月 天皇、日向より還御。 
    25年7月 武内宿禰を遣わして、北陸及び東方を偵察させる。
 おそらく、景行天皇はここで東征を決意し、武内宿禰を東方へ派遣し事前調査をさせたものであろう。しかるに、記紀では実際に東征を行ったのは日本武尊になっており、天皇の行為は以下のごとくなっている。
(但し、日本書紀による)
 景行52年5月 皇后播磨太郎姫崩御。
    52年5月 八坂入媛命立后。 
 景行53年8月  天皇「小碓王の平けし国を巡狩むと欲ふ」とのたまう。
           伊勢に幸して、転りて東海に入りたまふ。
    53年10月 上総国に至りて、海路より淡水門を渡りたまふ。
             この時、「高橋氏文」から採取したと思われる磐鹿六雁の
           挿話あり。
    53年12月 東国より還りて、伊勢に居します。
    54年9月   伊勢より倭へ還御。
    55年2月 彦狭嶋王(崇神天皇の子孫)を以て、東山道の十五国の都督
          (かみ) とするも、王は、途中、春日の穴咋邑で病死。(崇神
          天皇以来の疫病 がまだ続いていたか)
    56年8月 御諸別王(彦狭嶋王の子息)を再度任命。即ち、行きて治めて、
                               早に善き政を保つ。
    58年2月 近江国に幸して、志賀に居しますこと三歳。高穴穂宮という。
    60年11月  同宮にて崩御。
 以上を考えるに、天皇に代わって日本武尊が東征したというのははなはだ疑問だ。日本武尊は熊襲征伐でも景行27年10月条では弓衆を求め、同年12月条では熊襲国の「その消息及び地形の𡸴易を伺たまふ」と戦いに入念に臨んだようだが、これが御年16歳の少年の知恵とは思われない。百戦錬磨の将軍が行うことで、おそらく景行天皇自身が東奔西走したのであろう。そのとき、天皇の息子が随行し、その賢い息子(私見では誉田別と大鞆別ではと思う。いずれも応神天皇のこと)の話がクローズアップされただけではないか。
 また、日本武尊を偲んで東国へ巡狩する話も、古事記にはなく、何か「高橋氏文」に載っていたので採用したと言う感じの内容だ。「高橋氏文」は内容も詳しく、通説とは異なった見解を述べている。採用するなら採用するでもう少し踏み込んだらよかったのに。当時、高橋氏(膳氏)は天皇家の料理長だったので、内容的にはおかしい、と思ったが、一行(いちぎょう)だけを採用したと言うことか。それに、景行天皇が最初に行ったと思われる上総は日本武尊も経由した国ではあるが日本武尊の場合は通過点であって滞在したとなっていない。従って、景行東国巡狩の話は、「高橋氏文」の不明確な話であってそんな巡狩はなかったと思う。即ち、古事記のように記載のない方が正当ではないか。高橋氏を喜ばそうと思って記載したのかも知れないが、何でも書けばいいと言うものではない。それに、高橋氏文には景行天皇が、無邪志国造の上祖大多毛比、知々夫国造の上祖天上腹、天下腹を招いてご馳走をしたようなことが書かれているが、事実は毛野国造及び大彦系武蔵国造連合に押されっぱなしの无邪志国造と知々夫国造が景行天皇の遠征を好機に援軍を求めたものであろう。しかし、毛野・大彦系は元々景行天皇系の国造(大和系か。景行天皇遠征の前に崇神天皇が東国遠征を行っており、東国に楔を打ち込み、大彦以下の有力者を大和傘下に組み込んだものと思われる)であり、そんなことはできるはずもなく、両国造(出雲系か)を饗応して帰したのだろう。点数を稼いだのは高橋氏のご先祖様で従軍食糧係から天皇家の料理長に昇格したのである。
 ついでながら、上記に彦狭嶋王とか御諸別王という人が出てくる。これらの王は崇神天皇の系譜の人であり、もし、崇神天皇と景行天皇に血縁関係がないとしたら、大和国にうろうろしているこれらの人は、景行天皇にとっては目障りな人ではなかったか。よって、天皇は自分の息子と彼らとの無用な争いを避けるため彼らを東国へ追いやったのではないか。日本書紀では崇神天皇の皇子である豊城入彦命が上毛野、下毛野両氏の祖となっているが、崇神天皇系の人物が毛野に入ったのは景行天皇の時代に入ってからではないか。もっとも、私見では記紀の言うように崇神天皇が垂仁天皇の先代とは考えず、垂仁から崇神そして景行へと継がれたものと思われる。
 以上より、景行天皇は息子を偲ぶセンチメンタル・ジャーニーへ出かけたり、どこかで骨休めをしたりなどということはなく、その生涯のほとんどを働きづめ(遠征)で過ごしたのではないか。
    
 
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